大判例

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最高裁判所第一小法廷 平成4年(行ツ)192号 判決 1993年2月25日

愛知県愛知郡日進町大字浅田字平子四-三五四

上告人

夏目正

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

名古屋市中村区太閤三丁目四番一号

被上告人

名古屋中村税務署長 原田正一

右当事者間の名古屋高等裁判所平成四年(行コ)第八号所得税更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成四年九月二四日に言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人竹下重人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決の挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平 裁判官 味村治 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好達)

(平成四年(行ツ)第一九二号 上告人 夏目正)

上告代理人竹下重人の上告理由

一 本件の争点は左記の土地の譲渡による所得が、所得税法上、譲渡所得であるか事業所得であるか、の一点である。

一 所在 愛知郡日進町大字浅田字茶園

地番 壱四番の弍

地目 山林

地積 壱參七四平方メートル

二 所在 愛知郡日進町大字浅田字茶園

地番 壱番の弍參

地目 山林

地積 壱九平方メートル

(以下、本件土地という)

二 原判決(原判決が引用する第一審判決を含む)は、本件土地の、上告人による所得および売却について、次のとおり認定した

1 上告人は本件土地一を、昭和四七年一一月一六日に原子ユキから、代金一五八四万円で買い受けた。

同年一二月二三日名藤建設株式会社にこの土地の造成工事を代金九四〇万円で請け負わせてその内金二〇〇万円を支払い、同社は本件土地一上の立木伐採、公道に面する部分付近の一部の地ならし等を行っただけで倒産し、本件土地一について、それ以上の造成工事は行わなかった。

2 上告人は本件土地二を、昭和五五年一二月一三日に、浅井三市から、代金三三〇万円で買い受けた。

3 上告人は、昭和六一年六月二五日に、中村不動産株式会社に、本件土地を一括して、代金一億六五一六万五〇〇〇円で売却した。

三 本件土地の売却による所得について、上告人は、これを譲渡所得(但し本件土地一に関する部分は長期譲渡所得、本件土地二に関する部分は短期譲渡所得)として、分離課税がなされるべきであると主張し、被上告人は、これを事業所得であると主張した。

原判決は被上告人の主張を採用して、右の所得は事業所得に該当する、と判断した。

四 原判決の判断は、所得税法三三条の解釈、適用を誤った結果、憲法三〇条に違反するものである。

上告人は、昇永不動産の商号を用いて、個人で、不動産業を営んでいる者であり、本件土地は、その取得の時から、転売目的で取得した、不動産売買という事業上のたな卸資産が該当する資産であるから、その譲渡による所得は事業所得である、と結論づけたものである。

五 しかしながら、第一審における本人調書(第一八回口頭弁論および第一九回口頭弁論)によれば、上告人は本件土地を、当初から賃貸マンションを建築する予定で取得したものである。

すなわち、上告人は、本件土地を取得する前に、日進町大字浅田にも土地を買い取っており、昭和四八年に、その土地に自宅を新築して転居したが、不動産業の営業所は引き続き中村区太閤通に置いていた。したがって、本件土地に賃貸マンションを建てて安定した収入を得ようとしたことは合理的であった。上告人は、本件土地上にマンションを建てる準備として、建築業者に依頼して設計図を作成して貰ったが、資金繰りの都合等もあって着工するに至らなかった。

六 上告人は、本件土地に係る公租・公課を不動産業に係る必要経費に算入せず、家事費として支払い続けていたし、本件土地を売却するまでの間に、一度も本件土地を売りに出したこと(広告をしたり、業者に仲介を依頼したりすること)はなかったのである。このことは上告人が本件土地を転売する意図を有していなかったことを示すものである。

しかるに原判決は、公租・公課を必要経費に計上していなかったのは、本件土地の固定資産税は、上告人の自宅として使用している土地・建物の固定資産税と同一の納税通知書で告知されるから、家計費として一括処理しただけである、と判断した。この判断は、事業を営む者の、必要経費に関する慎重を無視した、条理に反する謬見である。

また、上告人が本件土地について売却のための広告などをしなかったという点について、原判決は、本件土地の近くに地下鉄の駅が出来る予定があったので、値上がりを待っていたためである、と判断した。

これは、第一審において、上告人が、本件土地に賃貸マンションを建てることがよいと考える根拠として「近くに地下鉄の駅が出来るという噂があった」と供述した(第一八回口頭弁論における本人調書)ことを、値上がり待ちにすり替えた判断であって、これまた条理に反するものである。

七 原判決は、一般論としては、「不動産業者の所有する土地であっても、それが販売用の土地ではなく、例えば、当該業者自身の居住用または賃貸用の建物の敷地に供しており、あるいは現に右の用に供していなくてもこれに供する目的で取得し所有する土地である場合には、その譲渡が反覆的ないし継続的に行われるものの一つでそれ自体が事業を構成したり、営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡(所得税法三三条2項一号)に該当するものでない限り、譲渡所得であると解するのが相当である。」と適切な判断を示し、また、「不動産業者が、販売用に取得した土地について、その後目的を変更して、自己の居住用又は賃貸用の建物の敷地に供しており、あるいは右の用に供する目的で所有していた場合には、その土地の譲渡による所得は、原則として、譲渡所得となると解すべきである」と説示しながら、本件土地は上告人が、当初、転売目的で取得したものであるところ、その後に賃貸マンションの敷地にするという目的に変更したことを認めるに足りる客観的状況が存在しないから、本件土地は取得の時から、販売の時まで一貫して「たな卸資産」であったものである、と判断した。

その重要な根拠とされたのは、本件土地の売却代金が、上告人の事業所得に関する決算において、売上収入に計上されていたこと、および本件土地が「たな卸資産」に計上されていたこと、の二点である。

前者は、上告人の事業所得に関する税務処理の委任を受けていた会計事務所の事務員が、本件土地の売却代金によって、事業用の資産を取得し、事業用資産の買換の特例の適用が受けられるから、本件土地の譲渡収入は結局課税されないのであるから、売上収入の経理はどちらでもよいと誤解したものであった。

第二の点について、本件土地がたな卸資産一覧表(乙第一号証の一)に記載されており、本件土地の取得の時からそのように経理されていた旨の第一審における証人関庄平の証言があった。

この点について、第一審判決後、上告人においてさらに事実の経過を精査したところ、次の事情が判明した。

すなわち、本件土地が前記の棚卸明細表に記載されたのは、上告人が不動産業者として備付けを義務付けられている取引台帳によったものではなく、昭和五一年か五二年ごろ、国税局の通達が出され、企業の簿外資産、簿外・仮名の預貯金等についても、その当時進行中の課税年度において公表帳簿に計上すれば、それらの資産の所得時まで遡っての課税処分は行わないという取扱方針が公開されたことがあり、そのころ上告人が関庄平と話合いをした際、上告人が本件土地も資産台帳にはなっていないはずだ、と説明し、関庄平がそのことも含めて、上告人所有資産を書き出したメモを作ったことがある。そのメモが会計事務所に残っていたので、昭和六二年春に行われた上告人の昭和六一年分の所得調査(この調査は、はじめは上告人が有価証券の売買によって利益を得ていながら、その所得の申告をしていないのではないか、という見込みで、遡って七年間の関係資料を調べ上げたが、結果的には、昭和六一年の本件土地の譲渡に係る更正だけになった)の際、調査官から棚卸資産の内訳の提出を求められた関庄平が前記メモを出発点として、その後の取引による移り変わりを整理して、上告人に説明しないままで、前記明細表を調査官に提出したものであることが確認された。

したがって、上告人が本件土地を、不動産業に係るたな卸資産として計上することを前記会計事務所に指示したことはなく、本件土地購入の時から、これがたな卸資産に計上されていた事実も無かったのである。

関庄平は、右のような経過を上申書に記載し、上告人はこれを甲第七号証として提出し、関庄平および上告人本人につき再尋問を請求したのであるが、原審は第一審判決に拘泥して、上告人の申請をいずれも排斥した。

このことは、極めて重要な証拠を、正当な根拠なしに排斥したものであつて、条理に反する。

八 以上のとおり、原判決は、上告人が依頼した会計事務所がした誤った経理処理だけを根拠に、本件土地を上告人の不動産業に係るたな卸資産であると即断し、本件土地の譲渡による所得を譲渡所得であると判断したものであり、本件土地の所得、保有の経緯、売却が同業者から特別に懇望されて直接取引(仲介人なしの取引)であったことなどについて、上告人の弁明を無視もしくは軽視した不条理な判断によって、所得税法三三条にいう「たな卸資産」の意義の解釈およびその事実の認定を誤り所得税法に定めるところを超える組税負担を上告人に強いる結果となる、憲法三〇条に違反するものである。

よって原判決を破棄し、本件を名古屋高等裁判所へ差戻す旨の判決を求める。

以上

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